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シリーズⅠ/「柳田国男」を尋ねる④ 昨年、宮負定雄の『奇談雑史』を校訂・注釈入りで刊行された佐藤正英先生に訊く

2011年4月15日(金)  浅草橋 江戸蕎麦手打処 あさだ にて

佐藤正英先生について 1936年生まれ 倫理学、日本倫理思想史専攻

 東京大学、共立大学教授を経て、東京大学名誉教授。

 著作からみても、古事記、西行から、親鸞、宮本武蔵、小林秀雄に至るまでの学問的視野は幅広い。

Q:先生が昨年 出版された宮負定雄(みやおいやすお)の『奇談雑史』はとても面白い本ですね。

 『遠野物語』発刊百周年の年に一番ふさわしい本だと思いました。出版への経緯をお話していただけませんか。

A:私の教え子で同学の研究者久米昌文さんが、古書店で宮負定雄の『奇談雑史』の写本を見つけてきまして、翻字校訂して、以前出版した宮負定雄著作集『幽冥界秘録集成』(八幡書店)に入れたのです。(宮田登先生が「日本民俗学の先駆者ー宮負定雄ー」という解説を書いた時ですね。)

 その後、注釈をつけて ちくま学芸文庫 で出そうということになっていました。

 宮負家から信頼されて久米さんの助手として文書の整理をしていた武田由紀子さんが、久米さんが足利文庫所蔵の『奇談雑史』の写真版を入手し、それを翻字していて宮負定雄の自筆本であることを発見したのです。

 武田さんから、ずいぶん前に、自費出版でという相談をうけていたのですが、今回、筑摩さんの学芸文庫の話として注釈をつけて実現できてたいへん喜んでいます。

Q:最初の写本と足利文庫所蔵本との違いはどうだったのですか。

A:足利文庫所蔵本は、生前からの約定により、参澤明筆の巻 第15話が入っています。しかし、本文の違いはほとんどありません。写本はいずれも参澤明経由のものです。

Q:柳田が見た写本と、久米さんが見つけた写本とも違うのですね。

A:久米所蔵本は、柳田さんが見た写本の転写です。

 柳田さんの書いた文面からも、宮地厳夫が写したものを見たと言っていますが、柳田さんがどんないきさつで見ることができたのかはよくわかりませんね。

 ただ、柳田さんが、「山の神とオコゼ」のなかで紹介していることだけでなく、もっと広く影響を与えていてもいい本だと考えています。

Q:「日本民俗学の先駆者ー宮負定雄ー」という宮田先生の指摘をどう思われますか。

A:まったくその通りで、今の民俗学の研究者や柳田研究者にこの視点が無くなっているのは残念です。

 柳田さんについての評価も、60年代の実証偏重の無批判な担ぎ方をされたことが、今のようになってしまった原因なのではないでしょうか。

 柳田さんにとっては、江戸期の国学への評価が、「新国学」を作っていこうという熱い思いとなったわけですから、もっとこの辺にも光をあててほしいと思います。

Q:宮地神仙道の宮地厳夫との接点は、宮内省だろうと予測はつきますが、これからの課題です。

  ただ、和歌の先生の松浦萩坪とも通じるところがあり、面白いと思います。

A:柳田が見た宮地厳夫の手による写本がどこにあるのか、また参澤明関連の写本がわかったらいいですね。

Q:宮負定雄は、安政の東海大地震の記録も書いているようですが、今、読んでみてヒントになるようなこと言っているのですか。

A:地震のあとの忠実な記録である『地震道中記』『地震用心録』『地震用心考』(厳松堂出版)を述作しています。  宮負は、和歌山にいる友人 参澤明に会いに行った道中で大地震に遭遇したのでして『奇談雑史』の成立に大きな意味のある旅の途中だったわけですね。

ーこの後、大震災で一度に大勢の方々が亡くなってしまうような事態についてや、被災された方々への思いとか祈り、天皇の被災地訪問の意味などを話し合いました。

 『柳田国男全集』の編集者 山本さんと、『奇談雑史』担当の学芸文庫の伊藤さんと四人で飲みながらの話をまとめたので、ほんのエッセンスだけですが、佐藤先生の広範囲に及ぶ倫理思想史研究を背景とした確かな言葉に深く心をうたれました。

 そのなかで、佐藤先生が、天皇夫妻は、被災地の人々と一緒に、天地山川の〈もの〉神と非業の死を遂げた〈たま〉神をまつる神と仏のまつりをしたらよいのではないかという話をされました。

 天皇も心中では、天皇の果たすべき役割としてそれを望んでいるはずだとおっしゃたのが印象的でした。

 最後においしいお蕎麦を食べ、また飲みましょうと言っていただきました。

 佐藤先生、楽しい時間をありがとうございました。 ー 

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ちくま学芸文庫 宮負定雄『奇談雑史』(2010年9月刊) カバー写真は 国際日本文化センター蔵の「百鬼ノ図」(部分)。帯に「霊異、怨霊、幽明界・・・日本民俗学、説話文学の幻の名著」とあるお薦めの一冊

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